どうして私ばかりこんな目に合うんだろう。
どうしてこんな境遇に生まれてしまったんだろう。
・・・そんな風なことを考えて自暴自棄になったり、無気力になったりしたことはないでしょうか。私はあります。
『穢翼のユースティア』のキャラクターたちは、私が悩んでいることを鼻で笑うくらい不条理な目にあっている人ばかりです。家族を失っていたり、奴隷扱いされていたり、殺されるために生かされていたり・・・。そんな不条理な環境、境遇で精一杯生きる様を見せつけられるのが『穢翼のユースティア』というゲームです。
あらすじ
一応あらすじから。
悲劇は往々にして不条理なものだが、これほど不条理という形容がしっくりくる悲劇もなかった。
その日、この都市の一角が多くの人命と共に大地へと崩落した。
性別、年齢、人間性、地位、経済力……
犠牲者に一切の区別はなく、ただそこにいたという一事だけが、彼らの命を奪った。
なぜ死なねばならなかったのか。
無数の死に何の意味があったのか。
答えはなく、残された人々に与えられたのは、輪郭のない茫洋たる喪失感だけだった。
後に ≪大崩落≫『グラン・フォルテ』 と呼ばれる悲劇だ。
あれからずっと、この都市 『ノーヴァス・アイテル』 には不条理の雨が降り烟っている。
上層から下層へと、都市を濡らした水は低きへ流れ、やがて牢獄に聚まり澱む。
嵩を増す汚水を取り除く術もないまま、囚人たちはただ喘ぐ。いつの日か、この都市『ノーヴァス・アイテル』に陽が差す時が来るのだろうか。
引用元:穢翼のユースティア公式サイト
空に浮かぶ都市、『ノーヴァス・アイテル』が物語の舞台です。そんな都市で、ある日地盤沈下が起き、下層の一部が落ちてしまいます。被災者達は政府から見捨てられ、地盤沈下した場所は無秩序状態になり、牢獄と呼ばれるようになりました。主人公はそんな牢獄で不条理な目に合い、暗殺者としてしか生きるしかなかった過去を持ち、現在は何でも屋として生きている人物です。
ウィキペディアによると発売日の月に東日本大震災が発生して発売日を一ヶ月延期したみたいですね。なんというタイミング・・・。
感想
フィオネ
おっと画像間違えました。
フィオネは羽狩りの隊長です。羽狩りというのは、背中に羽が生える病気通称羽化病の人を保護する仕事の人達です。
フィオネは真面目を通り越して頑固で融通が利かない人物でした。娼婦の仕事に偏見を持っていて差別的な態度を取ったり、捜査の障害になると何度も言っているのに頑なに羽狩りの制服を着替えなかったりしていました。
特に娼婦についての言動は、おいおいこれTwitterで言ったら炎上するぞ・・・と思うほど容赦がなかった気がします。
羽狩りの仕事にも誇りを持っており、仕事内容について何の疑問も抱かずにいました。
ですが、主人公(以下カイムとします)と捜査をしているうちに、羽狩りの仕事は羽化病患者の保護ではなくむしろ死に追いやる行為だったと気付かされます。
今までの価値観が覆り、絶望するフィオネですが、兄やカイムの言葉によって、「与えられた価値観ではなく自分の頭で考えて選択して生きていくこと」を選びます。
誰かから与えられた価値観に従って生きるのではなく、自分の頭で考えて生きる。実は結構難しいんですよね。
与えられた価値観に従って生きるのはとても楽ですから。みんながああ言っているからそうなんだろう。誰しもそうやって思考停止した経験はあると思います。
しかしそれは生きていると言えるのでしょうか。自分の頭で考えて自分のやりたいように生きるということが自由であり自立しているってことなのではないのでしょうか。
フィオネルートはそんな話でした。
エリス
「どんな人にも生まれてきた意味があるなら私は人じゃないってことなんだ」
エリスという少女を象徴するセリフです。
エリスは生まれた時から家の地下に監禁されており、人形のように扱われていました。両親が殺され娼婦になる直前のところを上記の言葉を聞いたカイムが引き取り、これからは自由に生きろと何度も説きますが、エリスはそれを拒否し続けています。
エリスは人形のように扱われていた境遇から、なにかに依存しないと生きていけなくなっていたのでした。
ですが、カイムは人は変わることができると言います。エリスの境遇を知らない人間からは普通の人間として見られているしエリスは普通の人間だと。
そしてエリスは依存することをやめて自由に生きることに決めたのでした。
さて、私は正直これだけだと納得できなかったです。あんなちょっと話しただけでエリスの考え変わらんやろと。私がエリスならそんなことええから最後まで依存させろやってなりますね。
そこでこの章のテーマを考えることでなんとか納得することができました。
この章のテーマは「生まれの理不尽」でしょう。
この章での敵役のベルナドも生まれの理不尽を持ったキャラクターです。ベルナドは愛人の子であり、あとから生まれた本妻の子であるジークに立場を奪われました。
ベルナドはジークに敗北しますが、そんなベルナドにジークはこう言います。「生まれの理不尽に意味はない。そんな事にこだわっているからお前は負けたんだ」と。
そう、生まれの理不尽に意味などないのです。そんなことよりも、今どうするか、これからどうするか、のほうが重要でしょう。人は誰しも自由に生きていくことが可能です。
そういう話もあそこでカイムはエリスにするべきだったんじゃないですかね。言ってましたっけ?言ってないよね?
この章でのエリス、何を考えてるのかわからなくて怖かったです。エリスの魅力が出ているのは、この章以降だと思います。本当にカイムへの依存をやめて自分の頭で立派に生きている様が見られますので。
終章のここがエリスのハイライトだと思います。
コレット
間違えましたこっちです。
コレットは宗教組織「聖イレーヌ教会」の第29代目聖女であり、信仰心が深い少女です。
ですが信心深いあまり、他者の都合を考慮しないきらいがあり、周囲がついてこない節があります。
コレットは大聖堂の中以外では目が見えません。まさに名実ともに盲目だったといえますね。
コレットは自分の信仰だけでなく、他の皆の信仰にも目を向けることを決め、光を取り戻しました。
孤独では信じるものも信じ続けることができない。誰かが支えてくれるからこそ信じ続けられる。コレットにとってそれはラヴィリアでした。だから最後に二人で死ぬことになっても、コレットは幸せだと言います。
とまあここまではいい話なんですが、コレットは本当に他の皆の信仰を見る気はあったんですかね?ならなんであそこでカイム追い返したんですかね?ちょっとは話聞いてあげてもよかったやろうに。まあ聞いていたとしてもどちらにせよコレットなら武装蜂起してきそうですが。
リシア
この話のテーマってなんなんですかね?わからん!(爆)
たぶん上に立つ者の責任とかそんな感じのものでしょう(適当)。
シナリオとしてはいろいろな情報が明かされますし、ギャルゲーとしても王道ですし一番完成度の高いルートだと思います。リシアが人気投票ナンバー1なのも頷けます。
世の中を変える力がある者は時には感情を捨て、世の中のためにできる限りのことをやらなければならない。リシアの父や、カイムの兄のルキウスはまさにそうであったし、リシアもそういうふうに成長していきます。ですがリシアは優しすぎるので犠牲が出るやり方はできません。犠牲を出すなと言いつつもそれは無理な話で、力及ばす民が殺し合ってしまう様を最後まで見届けるところに彼女の強さを感じました。
ルキウスのいう、理想や理屈、実利を優先させる話なのかなあと思います。
ユースティア
ティアが犠牲になることで都市が救われることが明かされます。
カイムはいろいろなことを知ったし、ティアの一番身近な人物であり、リシアやルキウスやジークなどの重要人物ともコネクションがあってまさに行動一つで世の中を変えることができる力を持っています。ですが、ルキウスのいう実利主義に従って何もしません。若干の違和感を覚えてはいましたが何もできずにいました。
そんなカイムをジークは「自分の足をなくしちまった」と評価します。
序盤のフィオネと同じです。与えられた価値観だけで生きていて自分の考えがありません。
そうしているうちにも、カイム以外の人たちは自分の足でどんどん前に進んでいきます。
フィオネは人々を守るために戦うし、エリスは人々を治療しながらもカイムにお金を返すし、コレットは天使とティアを解放するためにジークの武装蜂起に協力するし、リシアは戦いを止めようとするも捕まってしまう。
そういった姿を見ているうちに、やっとカイムは自分の気持ちに気が付きます。ティアを犠牲にしてまで生き残りたくはない。その感情に従い、リシアを解放して、ティアを解放しようとルキウスのもとへ向かいます。これもうどっちが悪者かわかんねえなあ!?
理想や理屈、実利など全てを投げ捨て、感情のままに自分の欲望に従って一人の女の子を助けに行ったことに人間らしさを感じました。今この瞬間終わるかもしれない不条理な世界だからこそ、後悔のないように自分のやりたいようにやる。終章はすべてのキャラクター達がそう動いていたと思います。
そう、世の中は意味もなく不条理です。自分の思ったように物事は進まないし、今この瞬間世界が終わるかもしれない。それなら自分の生きる意味に従ってやりたいように生きたほうがお得ですね。
不条理に満ちた世界ですし、ハッピーエンドとも何とも言えないあの終わり方は正しいんじゃないでしょうか。結末よりも、どのように生きたか。満足のできる生き方をしたか。といったことのほうが大切なのだと思います。
評価
今回の配点は、テーマ25、シナリオ25、キャラクター20、読後感20、その他10です。
・テーマ
22/25
最後まで「不条理」というテーマについて描いていたと思います。ただまあ特に驚きやハッとするような気づきはなかったので満点ではないです。この項目はよっぽどのことがないと満点にする気はないので低いということではありません。
・シナリオ
25/25
章ごとに舞台や環境が大きく変わるのが飽きが来なくて良かったです。テンポもいいし文章も読みやすいしちょうどいい長さでくどくない。私的には理想的なシナリオと言えます。
ちなみに総プレイ時間は20時間程度です。読むの11年ぶりの再プレイで2回目だし多少はね?
・キャラクター
17/20
さすがオーガストと言ったところで、男性キャラも女性キャラもキャラクターが立っていて明確な役割があって不快なキャラもいませんでした。ですが私的にはこれ!といったキャラクターはいなかったです。まあいるほうが珍しいんですけど。
・読後感
15/20
ビターエンドは別にいいのですが、最後にカイムとジークとリシアで国を復興させる話とか欲しかったです。
・その他
14/10
主人公に声がある+5、OP曲めっちゃ好き+4、声優が豪華+2、読みやすい文章+2、システムに問題なし+1
限界突破は基本。
総評
93/100
全体的に高水準で誰にでもおすすめできる名作だと思います。
つい最近Switch版とPS4版も発売されましたのでこの機会に良かったらプレイしてみてください。
ほな、また・・・。
神OP貼るの忘れてました。