『アステリズムに花束を』は百合SFアンソロジーです。
全部で9つの百合作品がこの一冊に収録されています。
先に全作品読んだ感想を言ってしまいますが、読んでいて、これって百合なんか・・・?って思う作品が多かったです。
普段百合が好き百合が好きとほざいている私ですが、お恥ずかしい話あんまり百合作品を読んだことはなく、百合作品は『ゆるゆり』『桜Trick』『あの娘にキスと白百合を』みたいなコメディチックな作品が主流なのかなと思っていました。
ですが、『アステリズムに花束を』に収録されている作品のうちそのようなものはラストの『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』くらいです。他の作品はコメディというよりもシリアスよりのものばかりでした。
そして女性同士の恋愛よりも別のものをメインテーマにしており、女性同士の恋愛はあくまで添える程度の作品が多かったです。たまにそういう描写が出てきて、そういえばこれ百合作品やったなと気付かされるくらいでした。
百合の定義について、まえがきにこう書いてありました。
いずれもSFと百合をテーマに執筆された物語ではありますが、それぞれの作家たちが描く人間と世界の関係性、人が人に向ける感情についての切実さは、あらゆるもの同士が接続できるがゆえに何もかも不確かになっていくこの時代において、他のどんな文芸にも引けをとらない普遍的な魅力であると、強く実感しています。
恋愛感情ではなくても、女性から女性に向かってなにか感情が向いていれば百合と言えるってことでしょうか。
先週の『ハーモニー』の感想で、これ別に百合じゃなくね?と言ったと思います。
ですがこの定義ですと『ハーモニー』も思いっきり百合ですね。いやー百合って奥深いですなあ🤤。
感想
『キミノスケープ』
自分以外の人間が消えてしまった世界の話。
一人の寂しさ、他者を必要とする感情が伝わってくる話でした。
導入としては素晴らしいと思いますが、恋愛感情どころか対象となる相手すらいないんですが・・・百合・・・?
『四十九日恋文』
死者とメールで文通する話。
Delivery to the following recipients failed.←これ懐かしい。
『ピロウトーク』
これだけ小説ではなく漫画でした。
人がほとんどいなくなった世界で前世でお気に入りだった枕を探す話。
自分に欠けたものを探すために必死になる姿を描いてるのかな・・・?
『幽世知能』
妹を殺した友達を問い詰める話。
「怖いんだよ……。理解するのが。他者がなにを感じているのか。あたしじゃないってことがどういうことか、わかってしまうのが、怖い!」
アキナは他者を理解することを恐れるがゆえに、他者を理解するための手段である「理由を訊く」という行為を憎む。そして理解できない他者である主人公の妹を殺すが、主人公の手によって幽世という完璧な相互理解がある世界へ飛ばされる。
孤独かもしくは他者との完璧な相互理解がある世界か。私は孤独のほうがいいかなあ。
『彼岸花』
最後の一人の人類となってしまった主人公が吸血鬼達の女学校に通う話。
なるほど、これが吸血鬼百合ってやつですね。
血を吸うということは他者の一部を自己のうちに取り込む行為。つまり、セッッッッッみたいなものでしょう。
百合と吸血鬼の相性がいいのはこういうところから来てたんですね。
『月と怪物』
人体実験が行われているソ連の研究施設での話。
9作品の中で一番重いのがこの作品だと思います。
一言で言うと、どんなに劣悪な環境でも抱きしめてくれる人がいるなら救われるって話ですかね。
ラストでテロに巻き込まれて死ぬのも不条理感あってよかったです。
『海の双翼』
人とアンドロイドと鳥人の三角関係の話。
そこまで暗い話ではないのですが、レズ特有の嫉妬によって悲劇が起き、三人の関係がぐちゃぐちゃになってしまうので、個人的には一番スッキリしない話だったなあと思いました。
言語が違うものの相容れなさを描いていたと思います。
『色のない緑』
友人が自殺した理由を探っていく話。
私は自然界の規則とでもいうものに従って生まれてきて、この人生も自然と人間社会の規則を外れたことはない。なのに私は、自分の人生のどこにも、〝意味〟と言えそうなものが見つからないの。私の人生はまさしくあの、〝Colorless green ideas sleep furiously〟って文章みたい
AIに仕事を奪われるだとかそんなことは関係なく、満場一致で意味のある人生を送っている人なんてそうそういないと思います。
曖昧でもなんでも、少しでも人生の中に意味を探し出すのが大事なんじゃないでしょうか。
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』
女の子二人で宇宙で漁をする話。
宇宙・・・漁・・・うっ頭が。
テラは不満だった。この世界が狭かった。 広域文明からかけ離れた、人口たかだか三十万の小さな世界。因習に縛られた古い氏族社会。お見合いし、結婚し、子供を産まされる人生。――それ以外にないと信じこみつつ、それ以外のことをしたいと思ってきた。
田舎のクソみたいな因習に縛られた社会に不満を持つ女の子二人が二人で田舎から飛び出すまでの話ですね。
昭和か大正かよってレベルの男尊女卑の社会で、レズレズな二人は一緒に暮らしながら自分の本当の気持ちや相手の気持ちを知っていき、その社会から抜け出していきます。
私は後に発売された書籍版の方を先に読みました。
書籍版は『アステリズムに花束を』に収録されたものを肉付けした感じで、流れは基本的に一緒でした。
ただ、書籍版は二人が恋愛関係になるまでが長いので、ダイオードの可愛さとかは短編のほうが伝わってくるかなーと感じました。
書籍版を読んでいた時、ちょっと全体的に雰囲気暗いかなーと感じていましたが、『アステリズムに花束を』の作品の中ではダントツで明るいですね。
どの作品も百合作品としてもSF作品としてもとても楽しめました。また機会があれば百合作品やSF作品に手を出したいと思います。
ほな・・・また・・・。