唯唯漂うただの海藻

本やゲームなどの感想とか好きなことを書いていく。

「るいは智を呼ぶファンディスク–明日のむこうに視える風–」感想-だから僕達は前へ進む-

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前回の記事の続き。

hijikichi.hatenablog.com

といってもFDだけで内容は大体わかるんで前回の記事は別に読まなくてもいいです。最初のあらすじだけどっかで見ていただければ。

あとVita版はFDもセットなので別にもう一本購入する必要はありません。今からるい智をプレイしたい人はVita版大安定かと。

るいは智を呼ぶ (通常版) - PSVita

るいは智を呼ぶ (通常版) - PSVita

  • 発売日: 2013/09/26
  • メディア: Video Game
 

 

 

宮和ルート

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最初のルートは智のクラスメイトである宮和のルート。宮和は攻略対象の中で唯一呪い持ちではない人物である。

宮和ルートといえども、実質智ルートみたいなものだった気がする。

なので前回と同じように智について考察していく。

智の性格は、「嘘吐き、優等生、腹黒、面倒屋(仲間のために面倒を引き受ける仲間想い)」こんなところだろうか。主人公だからちょっと属性が多くなってしまったけど気にしない。

呪いは、「自分の性別を知られてはならない」で、才能は「未来視」。

智は優等生の仮面を被って自分を偽っている嘘吐き。だから「自分の性別を知られてはならない」という秘密を抱えなければならない呪い。

才能の方はちょっとややこしい。

本編ではほとんど無効化されていた未来視だが、それとは関係なく、思い返せば智はいつも良い未来のために自ら行動していた。花鶏の本のためにパルクールレースに出たのもそうだし、るいを呪いから助けたのもそうだし、ばらばらになってしまったみんなを再び集めたのもそうだ。全ては自分で選んだ結果だと信じたいと茜子ルートでも言っていた。智は自分を偽る嘘吐きではあるが、同時に仲間やよりよい未来のために行動ができる熱い人物なのだ。そういった性格だから望んだ未来の可能性を決定づけることができる「未来視」という才能なのかもしれない。

そろそろ宮和の話をしよう。

宮和は家の方針でいろいろと行動を制限されていた。そういった、不自由で自分を偽らないといけないところに、智は嘘吐きでいなければならない自分と重ねる。

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自分の想いを押さえつけたり、自分に嘘をついたりして、自分の殻に閉じこもるのは簡単だし、それでも生きていける。だが、そういった生き方はとても寂しいものだ。

だから智達はそこから一歩踏み出す。もしかしたらそれは失敗なのかもしれない。けれどもその選択は自分で決断したものだ。

そもそも失敗や後悔とはなんなのだろう。それは自分がそのことを失敗や後悔だと思った時にそうなるのではないのだろうか。

どんなものにも悲しみはある。けれどもそれと同じくらい喜びもあるはず。

大切なのは、悲しみの方に目を向けて怖がるのではなく、喜びの方に目を向けて楽しむことなのだ。そうすれば悲しみと喜びの両方受け入れることができ、後悔などすることはないだろう。

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同盟という閉じたコミュニティから一歩踏み出す話でもあった。

私はこのエンディングが一番サッパリしていて気持ちよくて好き。

央輝ルート

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央輝の性格は、「短気、真面目、義理堅い」なんだけど、これだと呪いと才能について説明しづらいので性格ではなく属性として「自己矛盾を抱えている、裏社会の住人」を追加する。

呪いは、「日光を浴びてはならない」で、才能は「目を合わせた人間の感情を増幅すること」だ。

裏社会の住人で人道から外れたことも色々してきており、自分が表の世界には似合わないと思っているから、「日光を浴びてはならない」という呪い。才能は・・・よくわからない。裏社会の実力者で人々から大げさに恐れられているから「感情の増幅」という才能といったところだろうか。

さて、央輝ルートのテーマは、「割り切れない矛盾」と「あやふやな日常」だ。

央輝は上からの指示で智達を監視しなければならなかった。同時に、自分の不手際で呪いを踏ませてしまった智を守らなければならないと思っており、智達を大事に思っていた。

それだけではなく、央輝はずっと上からの指示と自分の感情との矛盾に悩んでいた。

だが、そういった割り切れない矛盾は誰しもが抱えているものではないだろうか。

誰しもそういった二面性はある。智が優しいと思っていた智の担任の先生も、裏ではどす黒い感情を抱えており、暗殺に手を出した。

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山月記ガチ勢の皆様なら知っていると思うが、李徴が虎になったのは、しょーもないプライドによって人との関わりを避け、家族や友人など大事な人のことを考えることが出来なくなり、人としての感情をなくしたからである。

山月記

山月記

 

人と怪物との境界線はそこだ。人との関わりを避け、大事な人のことを考えるという、人としての当たり前の感情をなくしてしまったとき、人は怪物になる。

矛盾を抱えた時は、人としての選択。自分や大事な人達にとっていい方の選択をする。自分が楽しいと思う方の選択をするべきなのだ。

央輝が復讐を止めたのは、智達と一緒に生きたかったからだ。人との絆は、人に正しい選択をさせる。人との絆は、人を人でいさせてくれる。

日常はとてもあやふやだ。央輝であったりあやめ先生であったり李徴であったり、誰しも心の中に怪物が潜んでいる。そして、ほんの些細なきっかけでその怪物は顔を出してしまう。

だからぼくたちは絆を大切にし、人としての選択、自分が楽しいと思う方の選択をし、平和な日常を守っていかなければならない。

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惠ルート

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惠の性格は、「クール、ミステリアス」なんだけど、今回もこれだと呪いと才能について説明しづらいので性格ではなく属性として「世界に絶望している」を追加する。いや「世界に絶望している」だとちょっとややこしいな。「他者の世界に関心をなくしている」で。

呪いは「自分に関する真実を話してはいけない」で、才能は「殺した相手の命を自分の命に上乗せする」だ。

他者の世界に関心をなくしていて自分の世界だけで完結しているから、自分のことを他者に伝える必要がなく、「自分に関する真実を話してはいけない」という呪い。他者の世界に関心をなくしていて自分の世界だけで完結しているから、他者を殺すことができ、「殺した相手の命を自分の命に上乗せする」という才能だろうか。

そんな惠だが、智と接しているうちに、智と一緒に生きていきたいという希望を見出していく。

だが、それは同時に惠にとっては絶望であり、呪いだ。みんなぼくらに呪われている。

希望などなくただ生きてさえいれば、希望も絶望も何も感じなかった。

自分の世界だけで完結し、他者の世界に無関心でいれば、希望も絶望も感じず安らぎの中にいられた。けれども、惠は智に関心を持ってしまった。これは呪い以外の何物でもない。

だが、またそれは惠にとって救いでもあり、惠が怪物から人間になった瞬間でもあった。

央輝ルートでも書いたように、人間と怪物の違いは、自分の世界だけに閉じこもるか、そうでないかだ。というか央輝ルートの項でちょっと書きすぎたな・・・惠ルートで書くこと殆どなくなったじゃないか・・・。

人はみんな可能性で確率的だ。人の数だけ世界があるのだ。それを無視して自分の世界だけに閉じこもる者が怪物であり、呪いなのかもしれない。

そうして人間になった惠は、人を殺すのをやめ、静かに死んでいく決意をする。

けれども、今度は智が怪物になってしまう。

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怪物は誰の中にも存在する。もちろん智の中にも。

智が怪物になったのは、明日を信じられなかったから。理解できない者や見えない明日への恐怖に負けてしまったのだ。

ではどうすれば見えない明日を信じられるかが終章のテーマとなる。

まあここまでで半分以上書いてるけどね。

終章

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これまでの話は、全て智が未来視で見たものであった。

しかもそれらの話全てが、智の満足するような全員が幸せになる終わり方ではなかった。本編がもやもやした終わり方ばかりだった伏線がここにきてやっと回収されたな。やったぜ。

一見幸せな結末に見える宮和ルートや央輝ルートでも、惠は殺人を続けるか死んでしまうのだろう。もしくは真耶の未来視によって無理やりBADENDにされるか。

智の双子の姉である真耶は、それでも現実に戻るのか、そんな辛い現実よりも私と二人きりでいられる世界へ行きましょうと言う。

真耶についても一応あれやっておくか。

真耶の性格は、「ブラコン」・・・。うーん・・・これしか思い浮かぶものがない。真耶は幼い頃から幽閉され父親の金儲けの道具にされ、未来視で見る智の姿しか心の支えがなかった。もう完全に壊れており、全ては智と自分のために生きていると言える。一応属性として「他者の世界に関心をなくしている」を付け足しておこうか。

呪いと才能は智と同じく「自分の性別を知られてはならない」と「未来視」。むしろこっちがオリジナルである。

なんとか関連付けたいところだが、智をベースに設定してあると思うのでうまいこと関連付けられない。分かる人は教えて下さい。

話を戻そう。

けれども、智はその提案を拒絶する。

どのルートにも、辛いことはたくさんあったが、同時に、楽しいこともたくさんあったからだ。

そもそも、全員が幸せになる終わり方とはなんだろう。その人が幸せだという基準はどうやって決めるのか。全部智の独断で決めてしまうのか。果たしてそれは傲慢ではないだろうか。

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精神世界の中で出会う人達(P)。このPというのは、おそらくプレイヤーの略だろう。智だけがプレイヤーなのではない。現実ではすべての人がプレイヤーであり、みんなそれぞれ自分の世界を持っているのだ。

人はみな可能性であり確率的である。智だけでなく他の人達も自ら選択し、自らの未来を決めている。

そうした相手の世界を無視し、自分の独断で相手が幸せかどうか決めることは、央輝ルートや惠ルートで言っていたような怪物となんら変わりないのではなかろうか。

惠は、どのルートでも殺人を続けなくてはならなかったり死んでしまったりしてしまうが、それでも智達と仲良くなったルートでは幸せだった。すべてを諦めていたのに、智達と出会って怪物から人間になれた。それを幸せと呼ばずしてなんと呼ぶのか。

人はみな自ら選択し、自らの幸せな未来のために行動している。

私達は、自分が思う幸せを相手に押し付けるのではなく、相手が困ったり間違ってしまっている時にそっと手を差し伸べる。ただそれだけでいいのだ。

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窓の外のシャボン玉がぶつかり合い、消えたり繋がったりしている。僕らはあのシャボン玉のようなものだ。誰かの選択によって影響され、僕らは形作られている。

人には人が必要だ。僕ら以外のみんなのそういった小さな選択の積み重ねによって僕らは形成されている。これは呪いでもあり、絆でもある。ぼくらはみんな、呪われている。みんなぼくらに、呪われている。

だから智達はみんなのいる現実に帰る。

だが、見えない明日への不安は拭えない。そんな時には思い出すといい。これまでの日々だって、辛い絶望はあっても、それと同時に楽しくなる希望もなかっただろうか。

智達は流星群を眺める。今流れている星々は、目にしている今は既に消えてなくなっているものだが、過去には確かにあったものだ。

過去に希望はあった。ならば、これから先の明日にも希望はあるはずだ。

そうして智達は見えない明日へ歩んでいく。

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感想

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こういうのでいいんだよ。

ルートが終わるたびに、こういうのでいいんだよこういうのでと頷いていた。

わかりやすいしキャラクターたちの魅力も出ているし本編でよくわからなかったこともしっかり回収してくれた。欠点はほぼなかったと思う。まあ欲を言えばFDじゃなくて本編でやってくれよと言わざるを得ないが。

評価はキャラ4.5/5、テーマ4.8/5、展開4.5/5で92/100かな。神ゲーと言ってもいい。

山月記が序盤にさらっと出てくれたのもよかった。終盤のテーマの理解にかなり役立った。まあこれほどまで関係してくるとは思わなかったけど。半分くらいは山月記みたいなものだった気がする。

わかりやすくて話も面白かったから本編の感想と違ってスラスラ書けた。こっちは特に何も参考にしていないのでなんかおかしかったら言ってください。

結局は「欠点と才能」「人間関係の煩わしさと絆」「絶望と希望」、相反した2つのものを肯定する話と言える。特に「欠点と才能」「人間関係の煩わしさと絆」は全ルート共通しているテーマだろう。何事にもいい面と悪い面(呪い)があって悪い面(呪い)の方に目を向けずいい面の方に目を向けて全体を受け入れてしまおうってこと。ぼくらはみんな呪われている。みんなぼくらに呪われている。だからこれは呪いの話だ。

とりあえず大きな呪い持ちの私は、一回で神速逃亡した自助会にまた参加したくなった(参加するとは言ってない)。ていうか今回も結構ひきこもりに厳しいテーマだったな。まーた理想の世界から現実に帰るみたいなテーマだし。やっぱりこの辺の時代はこういうの流行ってたのかねえ。楽しいこともあるし外に出ろと言われても、私は外に出て楽しかったことなんて思いつかないからな😡。どんだけ言われても外に出なくていいうちは外に出る気はないぞ😡。私なんて完全に自分だけの世界に閉じこもって他者の世界に無関心な怪物だわな。虎になっちゃうかー。がおー🐯🐯🐯。

思い返してみるとやっぱりOP曲通りの話だったね。更に好きになった。

最後にまたOP曲貼って終わります。ほな、また・・・。


るいは智を呼ぶ  絆 ORIGINAL SOUND TRACK NEW OP

るいは智を呼ぶ ORIGINAL SOUND TRACK 初回限定版

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  • 発売日: 2009/05/01
  • メディア: CD-ROM