「Fate/stay night」感想-信念を貫き通す尊さ-
「Fate/stay night」はいずれプレイしようとPC版をインストールだけしていたのですが、アニメを見て中途半端に内容を知っていたり、クリアまでかなりの時間がかかると聞いていて10数年放置していました。
ですが今回PSVitaとソフトを譲ってもらい、そこまで用意されたならやるかーと重い腰を上げてプレイした次第です。
プレイするならRealta Nua
PC版の無印とVita版のRealta Nuaのプレイ環境があったのでどちらをプレイしようか悩みました。
vitaで寝転びながらやりたいけど18禁シーンを消されるのはなんか悔しいので。
いろいろ調べた結果、Realta Nuaをプレイすることにしました。
決め手は、ボイスがあるのと、テキストが改良されて読みやすくなっているらしいことです。
428のカナン編をプレイした時にも感じたのですが、私は奈須きのこさんの文章が読みづらく感じることがあるのでテキストの改良はとても助かりました。
途中で読むのがしんどくなったら逃亡しようとも考えていましたが、おかげで最後まで読み切ることができました。
元々18禁シーンがそこまで重要な作品ではないのでシーンの変更はそこまで気になりませんでした。どうしても気になるならアニメ作品や漫画作品の方で補完すればいいと思います。
漫画版は少し読ませていただいたことがあるのですが、エッッッッッシーンも丁寧に書かれていた記憶があります。
アニメ版はとにかく映像がすごいですね。私はFate/stay nightのアニメ作品は全部見ているのですが、ゲームだと戦闘シーンがアニメに比べると少し物足りなくてまたアニメの方を見たくなりました。
まあアニメ版も漫画版も素晴らしいのですが、細かい描写やテーマが一番わかり易いのはゲーム版だと思いますのでアニメ見た人や漫画読んだ人もできればゲーム版もプレイしてほしいですね。
Fate/stay nightはテーマもの
「Fate/stay night」は超絶有名作品ですので今更あらすじなどを語る必要はないと思いますが一応冒頭のあらすじだけ貼っておきます。
日本のとある地方都市「冬木市」に数十年に一度現れるとされる、持ち主のあらゆる願いを叶える「聖杯」。7人の魔術師(マスター)は7騎の使い魔(サーヴァント)と契約し、聖杯を巡る抗争「聖杯戦争」に臨む。聖杯を手にできるのはただ一組、ゆえに彼らは最後の一組となるまで互いに殺し合う。ただし、この闘いも魔術も一般人には厳に秘匿されていた。
引用元:Wikipedia
このようなあらすじですので、私は「Fate/stay night」はテーマものではなく展開ものだと思っていました。
テーマもの、展開もの、あとひとつキャラものというのがあるのですが、これは私が物語を見るときに勝手に分類しているものです。
テーマものは、テーマ(メッセージ性)を重視している作品。「素晴らしき日々」「輪るピングドラム」や純文学などがこれにあたります。
展開ものは、ストーリーの面白さを重視している作品。「コードギアス」「バックトゥザフューチャー」やミステリー作品などがこれにあたります。
キャラものは、キャラクターの魅力や関係性などを重視している作品。きらら作品や少女漫画などがこれにあたります。
全部独断と偏見です。
これは私はかなり昔からやっていることですし、たぶん同じように作品を分類している人も多いんじゃないでしょうか。
閑話休題。
展開ものだと思っていた「Fate/stay night」ですが、いざ読み進めてみるとテーマものとしての側面が強かったです。
正義、理想、信念などの話が多く、キャラクターたちもそれらについて悩み、時にはそれらを賭けて戦います。
アニメを見ていたときにはテーマものとしての側面はあんまり感じなかったので(まあそんなに真面目に見ていなかったのもありますが)、ゲームをプレイして初めての発見でした。
士郎という人物
「Fate/stay night」は、主人公である衛宮士郎の生き方についての物語です。
災害が起こり周囲の人達が死んでいく中、幸運にも一人だけ助かってしまい、責任を感じ、自分よりも他者を優先するようになってしまいます。
そして恩人であり父となった衛宮切嗣の最後の言葉により、正義の味方になることに決めました。
しかし、凛や綺礼、セイバーやアーチャー達はそんな士郎の生き方は間違っていると否定します。
自分を無視するのはおかしいし、他人の理想は他人の理想に過ぎないし、その理想には限界があると。
自らの信念の肯定
士郎のサーヴァントであるセイバーも自分よりも他者のために生きる人物であり、士郎と似たようなものでした。
民を守るために常に正しい選択をしてきましたが、それは時には守るべき民を殺す選択をすることもあり、結果としてかなりの民を殺したこととなり、自分以外が王になったほうがよかったのではと後悔していました。
けれども、そのような後悔は自らの信念を肯定しきれていないから起こるものだと士郎に気付かされます。
信念を貫き通した結果がそれなのだから、それを恥じることはないと。
結果が大事なのではない。自身が美しいと感じた理想や信念。それを最後まで貫き通すことこそが大事なのだ。
信念を貫き通す強さ
信念を貫き通すと言いますが、それはそんなに簡単なことではありません。
アーチャーは、士郎と同じ理想を追い求めた結果、人を沢山殺すことになり、更には助けた人にも裏切られたと言います。
士郎の理想は人を沢山殺してしまう結果になるし、そもそもがその理想は他者からの受け売りという偽物に過ぎないのでその結果を背負う覚悟もないだろうと更に言います。
士郎の理想は他者からの受け売りという偽物に過ぎないので、自身の願いが存在せず、自身に返ってくるものがないのです。
衛宮切嗣がどういう理由でみんなのための正義の味方になろうとしたのかはわからないけれど、そこには切嗣なりの願いがあり、叶えることで切嗣に返ってくるものがあったはず。
しかし士郎にはそれがないので、理想を叶えたとしても返ってくるものがなく、力尽きてしまいます。(正直ここの理屈よくわからないです。恩人の願いを代わりに叶えたいというのはそれなりの理由だと思うし、切嗣の言葉がなくても災害で一人生き残った経験から自然と正義の味方になってそう。)
とにかく重要なのは、他の人を犠牲にしてでもその上で正義の味方になる覚悟があるのかということです。
それに対し士郎は、誰かを犠牲にしなければ誰かを救えないという現実はとっくに知っていた。それでも求め続ければ理想に近づけると信じている。と答えます。
士郎自身の願い
さて、ここまで信念を貫き通すことの大切さを示してきました。
けれども、それでは士郎の問題は解決できていないのです。
士郎の一番の問題とは、自分という概念がないこと。
自分というものを無視し、他者のために生きているので、いいように使われるばかりで報われることがありません。このままでは士郎はアーチャーと同じ結末になってしまいます。
桜ルートで士郎は、多くの命を救うか、それとも士郎にとって大事な人物である一つの命を救うかの二択を迫られます。
誰かを犠牲にしなければ誰かを救えないという現実を実際に突きつけられたわけですね。
これに士郎は一つの命を救うことを選択します。
みんなの正義の味方になるという信念を裏切り、初めて他者よりも自分を優先した瞬間です。
この瞬間、士郎はアーチャーと同じ結末を辿ることはなくなりました。
罪と罰
士郎は自分を殺して他者を優先していた。つまり、生きているとは言えませんでした。
けれども、他者よりも自分を優先する選択をし、自分というものが復活しました。
その結果、悪が生じ、罪が生じ、罰が生じました。
桜を選んだ結果、多くの人が死ぬことになり、その罪と罰を背負うことになってしまいました。
生きるということは罪と罰を背負うことだったのです。
罪を贖うにはどうすればいいか。
それはセイバールートでもすでに答えが出ています。
その生き方を貫き続けること。それが贖いであり救いなのです。
realtanua
さて、そんな桜ルートですが、タイガー道場スペシャルでも言われている通り、士郎がアーチャーと同じ道を辿らないための一つの解答にすぎません。(ひぐらしのなく頃にで言う祭囃し編みたいなもの)
そもそも、引き続きみんなの正義の味方を貫き通すことになるセイバールートと凛ルートでも、その後の士郎はアーチャーのようになってしまうのでしょうか。
私はならないと思うんですよね。
アーチャーがアーチャーなのは、信念や理想に疑問を持ったからだと思います。
それに対しセイバールートや凛ルートで信念を貫き通す大切さを確認した士郎はもう自身の信念に疑問を持つことはないでしょう。
ラストエピソードは、セイバールートのその後、みんなの正義の味方を貫き通した士郎の救いの物語だと感じました。
感想
総プレイ時間は46時間43分です。
セーバールート15時間くらい凛ルート13時間くらい桜ルート18時間くらいでした。
一ルート下手したらゲーム一作分やるくらいの時間かかってますが、時間かかる時間かかると脅されていて100時間くらいは覚悟していたので、これくらいなら全然集中できる範疇でした。
「Fate/stay night」は衛宮士郎の生き方についての物語です。
士郎は災害で一人生き残った責任と切嗣の言葉からみんなの正義の味方になるという信念を持っています。
しかしそれには、動機が弱いこと、その理想は不可能に近いこと、自分の願いが含まれていないこと、という問題がありました。
その問題の解答をルート中で示していきます。
セイバールートで信念を貫き通す尊さ、凛ルートで信念を貫き通す大変さ、桜ルートで実際に大変な局面に遭遇したらどう生きるかを示しました。
動機に関しては、セイバールートと凛ルートでは他の人物の信念を貫き通す尊さを知ったことで自身も信念を貫き通すということに決め、桜ルートでは桜が好きだからという理由で解決しました。
その理想は不可能に近いことに関しては、セイバールートと凛ルートでは、理想を叶えることよりもその信念を貫き通すことが大切ということで解決し、桜ルートではそもそも理想自体が叶えることが可能な現実的なものに変質したので問題なしです。
自身の願いが含まれないことに関しては、セイバールートでは明確な解決はありませんでしたが、ラストエピソードでセイバーに会うというささやかな願いが叶いました。凛ルートでも明確な解決はありませんでしたが、凛がそばにいるので問題なく感じます。桜ルートでは桜が好きだから桜の正義の味方になるという明確な願いがあります。
こう見ると全編それなりにハッピーエンドな気がしますね。
実現されなかったというイリヤルートですが、私が思うに、誰かが傍で支えてくれるなら士郎が自分よりも他人を優先しても問題ないって感じの話になったのではないでしょうか。
というのも、桜ルートはイリヤルートの側面もあるらしく、桜ルートでのイリヤはかなりお姉ちゃんしてたんですよね。
凛ルートのエンディングと若干被ってしまいますが、面白そうな話になったと思います。
「Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ」が実質イリヤルートらしいのでちょっと気になるところではあります。
桜ルートの解である「みんなのための正義の味方ではなく桜のための正義の味方になる」ですが、私はこれは賛成だったりします。
現代はインターネットやテレビなどで余計な情報がたくさん入ってくる世の中ですし、自分の手の届かないところの心配をするよりも、各々無理しない範囲で周囲の人々を大事にしていれば世界は平和になるんじゃないでしょうか。
「天気の子」だってそういう話でしたし。
他人しか優先しないことがいけないことみたいに言われていますが、自分しか優先しないことの方がいけないことという風に書かれています。
他人を優先すること(正義)も自分を優先すること(悪)も人には両方必要で、桜ルートの士郎はよくやったんじゃないかと思います。
そうそう、実はこの記事を書いている途中で他の方のレビューをいくつか見て、少し軌道修正をしました。
なんせ「Fate/stay night」は超絶有名作品ですし、質の高いレビューがめちゃくちゃ多いです。
これ私書かないほうが良くね・・・?と感じる記事がめちゃくちゃありました。
軌道修正しきれませんでしたし、検索ですぐに出てくるそれらの記事を読んで私の読み込みの甘さを笑ってください。
これだから有名作品をレビューするのは怖いんです。
Fate警察怖いよお...許して...許してクレメンス。
総評:テーマもストーリーもキャラも申し分なし。ストーリーがずっとシリアスなのでキャラゲーとしての側面は足りなく感じましたが、そちらも「Fate/hollow ataraxia」をやれば満足できます。個人的には少しだけテーマに満足できない箇所あり。あと長い。90/100
これから「Fate/hollow ataraxia」、「Fate/EXTRA」、「Fate/EXTRA CCC」、(あと余力があれば「Fate/EXTELLA」シリーズも)とプレイしていくのでしばらくはFate地獄です。よろしくお願いします。